5 議員年金制度の廃止

 市町村合併に伴う議員定数の削減が予想以上に進展したことに加え、行政改革に伴う議員定数及び議員報酬の削減が行われたため、さらに財政状況が悪化し、制度存続に必要な構造的条件が変化したことから、総務省は、平成21年に地方議会議員年金制度検討会を設置し、制度の存続、廃止の両面から検討を行うとともに、三議長会との調整を行いました。

 しかしながら、厳しい年金財政の状況や平成18年の国会議員互助年金の廃止などを背景とした近年の国民意識の変化を踏まえると、総務省としては、地方議会関係者の合意と国民の理解という双方の要請を満たしながら、今後も持続的な制度として存続させることはもはや困難であるとの判断に至りました。

 このため、平成23年6月1日をもって地方議会議員年金制度を廃止することとし、廃止措置を講ずる「地方公務員等共済組合法の一部を改正する法律案」を国会に提出し、衆議院・参議院ともに全会一致で可決され、5月27日に公布(平成23年法律第56号)、6月1日に施行されました。

(1)総務省検討会の報告

 平成18年改正の後、市町村合併が当時の予想を上回って大規模かつ急速に進展したことに加え、行政改革に連動した議員定数及び議員報酬の削減が積極的に行われたことにより、年金財政が極めて厳しい状況となったことから、平成21年3月に総務省に地方議会議員年金制度検討会(座長:大橋洋一・学習院大学法務研究科教授)が設置され、同年12月に報告(以下「検討会報告」という。)がまとめられました。

 検討会報告では、給付と負担の見直しを行う存続案(A案・B案)と制度を廃止する場合の考え方(廃止案)の両論を併記するとともに、全国市議会議長会から提示された案が紹介されました。

@ 存続A案

 公費負担率が5割以内となるようにすることを基本とし、給付水準を概ね10%引き下げるとともに、掛金率・特別掛金率・負担金率を引き上げる。

A 存続B案

 市町村合併の影響による財源不足分の全額を公費で負担し、合併以外の原因による財源不足に対しては、「公費負担:議員負担=4:6」とすることを基本とし、給付水準を概ね5%引き下げるとともに、掛金率・特別掛金率・負担金率を引き上げる。

B 廃止案

 国会議員互助年金の廃止にならい、現受給者・現職議員に対して十分な保障をした上で廃止することを基本とし、制度廃止後の経過措置としての給付については、原則として現状の給付水準を維持する。

C 全国市議会議長会の案

 市町村合併の影響による財源不足分の全額を公費で負担し、合併以外の原因による財源不足に対しては、「公費負担:議員負担=5:5」とすることを基本とし、給付水準の引き下げは行わず、掛金・特別掛金の引上げも行わずに制度を存続させる(制度存続が望ましいが、仮に制度を廃止する場合にあっては、国会議員互助年金の廃止の例にならい、一時金の支給率を80%とする)。

(2)制度廃止方針決定の経緯

@ 三議長会への意見照会

 平成22年10月5日、総務省の逢坂誠二政務官から、三議長会の会長に対して、全国市議会議長会の存続案によることは、財源不足の全てを公費で負担することになり、国民の理解を得ることが難しいとの総務省の考え方が提示され、これを前提として三議長会内で議論し、できるだけ三議長会の間でも考え方のすり合わせをした上で、11月上旬までに回答するよう依頼がありました。

 これに対して、三議長会では、会長会議の開催などにより、三議長会内の意見のすり合わせの努力が行われたところであるが、結果的に、全国町村議会議長会は10月20日に、検討会報告の存続B案による制度の見直しを求める旨の意見を、本会は同月26日に、検討会報告の存続A案でやむを得ない旨の意見を、全国市議会議長会は11月5日に、制度を廃止することとし、廃止に当たっては、退職一時金を掛金及び特別掛金の80%とすること等を求める旨の意見をそれぞれ機関決定し、同日に三議長会の会長から逢坂政務官に対して回答を行い、制度の存続・廃止について、三議長会の意見が分かれることとなりました。

A 民主党PTの提言

 民主党においては、10月14日に地方議員年金PT(座長:小川淳也・政策調査会副会長)が設置され、短期間に精力的な議論が行われた結果、11月25日に地方議会議員年金制度を廃止すべきとの提言がとりまとめられ、翌26日に小川座長から片山善博総務大臣に提出されました。

 なお、同PTにおいては、関係者からのヒアリングやアンケート調査を実施した結果、@三議長会の意見は存続と廃止で意見が分かれ、A党所属地方議員へのアンケート調査の結果は、7割以上が廃止と回答し、B党所属地方議員の代表者からのヒアリングの際にも、ほとんどが廃止の意見表明をしたことなどから、廃止すべきとの結論に至ったとされています。

B 自民党PTの提言

 自民党においては、10月15日に総務部会の下に地方議会議員年金制度に関する検討PT(座長:坂本哲志・総務部会長代理)が設置され、短期間に精力的な議論が行われた結果、12月3日に、地方議会議員年金制度を廃止するとともに、制度廃止後、地方議会議員は、地方公務員共済組合に加入する旨の提言がとりまとめられました。

 同PTの提言は、地方議会議員年金制度を廃止するという点では、民主党PTと一致しましたが、制度廃止後の地方公務員共済組合への加入という点で、民主党PTとは異なるものとなりました。

(3)制度廃止方針の決定

 総務省においては、11月5日までの三議長会の回答が存続と廃止で分かれたこと、11月26日に民主党PTから制度廃止の提言が出されたことなどを踏まえて検討を行った結果、昨今の厳しい年金財政の状況を踏まえると、地方議会関係者共通の合意と国民の理解という双方の要請を満たしながら、今後も持続的な制度として存続させることは困難であり、制度を廃止せざるを得ないとの判断に至り、12月3日、逢坂政務官から三議長会の会長に対して、制度の廃止と廃止後の給付の取扱いを示した総務省の対応方針が提示されました。

 これに対して、全国市議会議長会からは12月15日に、総務省の対応方針を同会の主張が概ね取り入れられたとして評価する一方で、制度廃止後の給付の取扱いについては、@統一地方選挙における退職者についても、年金受給資格を満たしている者については年金・一時金の選択権、年金受給資格を満たしていない者については一時金支給率80%という廃止に伴う措置を適用すること、A高額所得者に対する支給停止措置については、国会議員互助年金の廃止における措置と同一とすること、の2点について対応方針を見直すことを求める旨の要望が提出されました。

 また、全国町村議会議長会からは平成23年1月11日に、本会からは同月13日に、制度廃止の方針は、これまでの両会の主張と異なる結論であり甚だ遺憾であるとした上で、制度廃止後の給付の取扱いの見直し(全国市議会議長会の要望と同様)のほか、制度廃止後に地方議会議員が地方公務員共済組合(全国町村議会議長会)ないしは基礎年金に上乗せの報酬比例年金などの新たな制度(本会)に加入できるようにすることを求める旨の意見・要望を提出しました。

 総務省においては、これらの意見・要望を踏まえ、@制度廃止方針決定後の平成23年1月から5月までに退職した者については、制度廃止時(6月1日)の現職議員と同様の廃止措置を適用するとともに、A高額所得者に対する支給停止措置については、支給停止基準を住民税の課税総所得金額ベースで700万円(12月の対応方針では、総所得金額ベースで600万円)に引上げることとし、先の対応方針を一部修正した上で、1月25日に改めて総務省の対応方針として、三議長会に提示されました。

(4)国会審議の概要

 地方議会議員年金制度の廃止措置を講ずる「地方公務員等共済組合法の一部を改正する法律案」は、平成23年3月11日に閣議決定されたものの、同日に発生した東日本大震災の影響により、国会提出は4月1日となりました。

 その後、衆議院においては、4月28日に総務委員会で審議及び採決が行われ、全会一致で可決され、30日に本会議において全会一致で可決されました。参議院においては、5月19日に総務委員会で審議及び採決が行われ、全会一致で可決され、20日に本会議において全会一致で可決、成立しました。

 国会審議においては、衆議院・参議院ともに、@制度廃止に至った経緯・要因、A市町村合併特例法との関係、B制度廃止に伴う地方財政措置、C地方議会議員の人材確保への影響、D制度廃止後の地方公務員共済組合等への加入の可能性、E地方議会議員の役割・処遇のあり方、などが議論のポイントとなりました。

 その中でも、D制度廃止後の地方公務員共済組合等への加入の可能性については、多くの議員が質疑を行い、衆議院・参議院それぞれの総務委員会において、「地方議会議員年金制度の廃止後、概ね一年程度を目途として、地方公共団体の長の取扱い等を参考として、国民の政治参加や地方議会における人材確保の観点を踏まえた新たな年金制度について検討を行うこと。また、検討に当たっては、地方議会議員の取扱いについての国民世論に留意するとともに、公務員共済制度や厚生年金制度の対象者との制度面あるいは負担と給付の面における均衡に十分配慮すること。」との附帯決議がなされたところです。

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