全国都道府県議会議長会

東京電力福島第一原子力発電所事故対策に関する決議

令和3年7月14日 決定

 平成23年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所事故は、10年が経過した現在も収束しておらず、多くの人々が避難を続けている。

 放射性物質による健康被害への不安を始め、風評被害など、広範囲に深刻な影響を及ぼし続けている一方で、時間の経過とともに記憶の風化も進んでいることから、国は、一刻も早い事態の収束を図り、福島の復興・再生を加速させるべきである。

 さらに、令和3年4月、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」が決定されたが、この基本方針の決定については、国内外の理解が十分に得られている状況にあるとは言えず、安全性や新たな風評が生じることを懸念する意見等が数多く示されており、これまで10年にわたり積み重ねてきた復興や風評払拭の成果が水泡に帰す懸念がある。

 多核種除去設備等処理水(以下「処理水」という。)の問題は、福島県だけではなく、日本全体の問題として進めていく必要がある。

 よって、次の措置を講ぜられたい。

1 原発事故への対応

(1)国が前面に立ち、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組を安全かつ着実に進めること。

(2)東京電力に対しリスク管理及び情報公開の更なる徹底を求めるとともに、国の指導・監督を一層強化すること。

2 測定体制の整備と結果の提供

 大気中、海水、飲料水、農林水産物、土壌等の放射線モニタリング体制を充実し、測定結果及び科学的な知見に基づく評価結果を速やかに提供すること。

3 住民の健康対策

 放射性物質の汚染が認められる地域の住民等の健康を管理する体制を構築し、中長期的な視点に立った抜本的な対策を講ずること。

4 放射性物質の低減対策

(1)放射性物質汚染対処特措法に基づき、除去土壌の早期搬出及び原状回復、除染後のフォローアップなどを確実に実施すること。

 また、特定復興再生拠点区域の除染を確実に実施するとともに、同区域以外の除染・家屋等の解体の具体的方針を早急に示すこと。

 さらに、除染以外で生じた8,000ベクレル/kgを超える建設発生土等について、速やかに中間貯蔵施設へ搬入すること。

(2)安全な農林水産物を継続的に生産できるよう総合的な対策を講ずるとともに、農業用ダム・ため池の放射性物質の低減を図るため、福島再生加速化交付金の十分な予算を確保すること。

 さらに、森林の放射性物質低減については、生活環境の安全・安心の確保、里山の再生、調査研究等、森林・林業の再生に向けた総合的な取組について、中長期的な財源を確保し、実効性のあるきめ細かな対策を講ずること。

 加えて、しいたけ原木生産のための里山の広葉樹については、その森林の生育状況や放射性物質の動態等に留意しつつ、伐採・更新による循環利用が図られるよう計画的な再生に向けた取組を強力に推進すること。

(3)放射性物質汚染対処特措法に基づき、指定廃棄物(8,000ベクレル/kg超え)の確実な管理・処分を行うこと。

 また、汚染濃度にかかわらず、放射性物質に汚染された廃棄物等は、国が費用を負担し、迅速かつ適切な処理を進めること。

 さらに、放射性物質に汚染された焼却灰や汚泥等の再利用や指定廃棄物を出さない処理を可能にするための技術開発・普及を早急に行い、既存処理施設での処理促進のための財政支援を講ずること。

5 処理水対策

(1)処理水の処分に関する基本方針が決定されたが、処理水の処分によって、これまで積み重ねてきた風評払拭の努力を後退させることのないよう、国が前面に立ち、関係省庁が一体となって万全な対策を講ずること。

(2)国の基本方針等について、水産業を始めとする関係団体や自治体等に対する丁寧な説明と真摯な対話を継続して行い、理解を得ること。

(3)タンクに保管されている水の浄化処理を確実に実施するとともに、第三者機関による比較測定等を行い、処理過程の透明性を高めるよう取り組むこと。また、信頼性、客観性、透明性が確保されたモニタリング体制を構築し、地元関係者などの立ち会いのもと環境モニタリングを実施するとともに、処分設備に異常が生じた場合の緊急停止措置などの安全対策を講ずること。併せて、処理水の元となる汚染水の発生量を、これまで以上に抑制する対策を講ずること。

(4)トリチウムを始め処理水に含まれる核種に関する科学的なデータ、国内外におけるトリチウムの処分状況、環境モニタリングの結果など正確な情報を広く国内外に発信するとともに、新たな風評を発生させないという強い決意のもと、万全な風評対策を講ずること。

 また、そうした対策を講じても風評被害が発生する場合には、東京電力に対し画一的に賠償期間や地域、業種などを限定することなく確実な賠償を行うよう指導するなど、国が責任を持って対応すること。

(5)トリチウムの分離技術を研究開発する機関を明確に位置づけ、引き続き、新たな技術動向の調査や研究開発を推進し、実用化できる処理技術が確認された場合には、柔軟に対応すること。

6 風評の払拭等

(1)風評の払拭・風化の防止対策は、極めて重要な課題であることから積極的に取り組むこと。

(2)科学的根拠に基づく放射性物質の正確な情報を分かりやすく広報するとともに、放射能汚染・健康影響等に関する全ての情報を速やかに公開するなど、積極的な広報・教育活動を行うこと。

 また、各地方公共団体等が実施する情報発信等に対する財政支援を拡充すること。

(3)農林水産物の安全性に関する正確な情報提供やPR活動を継続、拡充するとともに、各地方公共団体等が実施する農林水産物等の販路回復・拡大、販売促進などに対する支援を充実すること。

(4) 被災地における交流人口の拡大を図るため、ウィズコロナにおける大規模な観光キャンペーンの継続的な実施など総合的な観光促進策を講ずること。

(5) 農林水産物等の輸入規制を実施している国・地域に対し、規制措置の撤廃を強く働きかけるとともに、政府間交渉の取組状況について、継続的な情報提供を行うこと。

7 原子力災害に伴う損害賠償等

(1) 原子力災害に関する全ての損害について、完全な賠償が果たされるよう東京電力に対し強く指導するとともに、被害者に対して責任を持って迅速かつ十分な支援を行うこと。

(2) 営業損害や風評被害の賠償について、事業者の立場に立った取組を徹底し、事業の再建につながる賠償を的確に行わせること。

8 原子力発電所事故被災地域の復興

(1) 福島特措法等に基づき、総合的な施策を推進するとともに、復興が成し遂げられるまで、福島再生加速化交付金制度を継続するなど必要な予算を十分に確保すること。

(2) 避難住民の生活の質の向上を図るとともに、一日も早く元の生活を取り戻すための支援措置を確実に実施すること。

(3) 避難地域等の事業者が事業を継続し、雇用を確保できるよう、強力な支援措置を講ずること。

(4) 帰還困難区域の特定復興再生拠点区域復興再生計画について、計画期間内の避難指示解除が確実にできるよう取り組むこと。

 また、特定復興再生拠点区域外については、各自治体の意見を尊重しながら、丁寧に協議を重ね、避難指示解除のための具体的方針を早急に示し、将来的に帰還困難区域全ての避難指示を解除すること。

(5) 福島イノベーション・コースト構想を推進するため、国とともに策定した「福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展の青写真」を踏まえて変更した重点推進計画に基づく各取組について、中長期的に対応していく必要があることから、構想実現のために必要な体制や財源などを十分に確保しながら、政府全体で一層の連携強化の下、福島県と密接に連携し、構想の具体化を推進すること。

 加えて、「国際教育研究拠点」は、福島イノベーション・コースト構想における司令塔の役割が期待されることから、国においては、引き続き、拠点整備の実現に向けた基本構想の策定等に取り組むとともに、立地地域の検討に向け、具体的な条件等を速やかに検討すること。

(6) 地域コミュニティの再生に向けて、被災自治体に対し、財政的支援を含めた長期的な支援を行うこと。

(7) 新たに追加される移住の促進や交流・関係人口の拡大、魅力ある働く場づくりに資する事業については、柔軟で使いやすい制度とすること。

9 原発事故の検証及び原子力施設の安全対策

(1) 事故拡大に至った原因や地域住民や国民に対する情報提供の在り方等を検証し、事故についての責任の所在を明らかにすること。

(2) 炉心溶融の公表の遅れについて、国の責任において早期に真相究明を行い、国民に対して真実を明らかにすること。

(3) 新規制基準については、原子力規制委員会が国民に説明責任を果たし、原子力施設に対し厳正な審査を実施すること。

(4) 東京電力福島第二原子力発電所について、廃炉作業が進められるよう、東京電力に対する指導・監督などに国として万全を期すこと。

以上、決議する。

 令和3年7月14日

全国都道府県議会議長会