全国都道府県議会議長会

1 農業・農村の持続的な発展に向けた取組の推進について

令和3年7月14日 決定

 我が国の農業及び農村は、担い手の不足や高齢化の進行、農産物価格の低迷、経済連携協定等に伴うグローバル化の進展、頻発する災害等に加え、新型コロナウイルス感染症拡大により外食需要が減少していることから、極めて厳しい状況に直面している。

 また、世界の食料需給が中長期的にひっ迫すると予想される中、我が国の食料自給率は、主要先進国の中で最低の水準にあることから、食料安全保障の確保に向けた施策の推進が一層求められている。

 このような中、「食料・農業・農村基本法」に掲げられた、食料の安定供給の確保、農業生産活動により生ずる多面的機能の発揮、農業の持続的な発展、農村の振興の4つの基本理念の実現に向けた具体的な施策を、地域の実情に十分配慮しながら進めていくことが重要である。

 よって、次の措置を講ぜられたい。

(1)近年、記録的な豪雨や大型台風、地震など自然災害の発生が頻発化・激甚化・広域化していることから、被災した農林水産業の災害復旧事業については、地方公共団体の資金需要に応じ、適切な時期に予算措置すること。

(2)農業及び農村が、国土や自然環境の保全、文化の維持や継承、地域社会の維持や発展等の多面的機能を発揮することができるよう、農業農村整備に関する予算を十分確保すること。

(3)地域農業を担う多様な経営体が、将来に希望を持って農業経営に取り組むことや持続可能な農業の確立ができるよう、農地利用集積の加速化及び地域特性に応じた農業生産基盤整備を総合的に推進すること。

 なお、その際は、老朽化した農業水利施設の設備更新、長寿命化、耐震診断及び耐震化といった、災害に強い農村地域の構築に関する施策も併せて推進すること。

(4)地域の農業を支える担い手の安定的な確保・育成と定着を図るため、意欲ある農業者に対する支援を充実すること。

 なお、コロナ禍で地方への移住の関心が高まっていることなどから、就農促進に向けた施策を推進すること。

(5)スマート農業の技術の農業現場への実装に向けた実証事業を拡充するとともに、十分な予算を確保すること。

 また、機械導入のための補助制度の充実、導入や利用に係るコスト低減の手法の開発・普及を図ること。

 さらに、技術に必要なデータ収集の推進、データを収集・活用する営農方法に精通した人材育成の仕組みの整備を図るとともに、新規就農者を対象とする農業次世代人材投資事業の拡充、新規に参入する農業経営者の研修費用の補助を行うこと。

(6)「経営所得安定対策」については、将来にわたり安心して農業経営に取り組める制度とするとともに、意欲ある担い手に対する支援を強化すること。なお、収入保険制度及び農業共済については、農業者が無保険の状態となることがないよう、農業者個々が経営内容に応じたメリット、デメリット等を理解したうえで加入の判断ができるように引き続き周知に努めること。

(7)農林水産物の販売促進活動に対する支援を引き続き行うこと。

 特に、ネット販売については、生産者が自らインターネット販売サイト(ECサイト)を開設・活用して新たなビジネスを展開できるよう必要な支援を講ずること。

(8)農業改革を進めるに当たっては、経済合理性のみを重視するのではなく、中山間地域等の実情や意見を反映することはもとより、農業及び農村が有する多面的な機能にも配慮しつつ、農業及び農村の振興や食料供給など農業協同組合及び農業委員会等が地域で担ってきた役割を踏まえ、今後とも国民の食を守り、農村を将来にわたり継承していけるよう、必要な支援を講ずること。

(9)主要農作物(稲、麦類及び大豆)の種子の安定供給及び品質確保を図るため、都道府県が種子生産等に取り組むための交付税措置を継続すること。

(10)農地中間管理事業については、人的及び財政支援を充実するとともに、一部地方負担が求められていることから、地方負担が生じないよう早急に改めるほか、今後、新たな地方負担を求めることのないよう安定した制度運用を図ること。

 また、機構集積協力金交付事業については、地域の実態に応じた予算を十分に確保すること。

(11)生産者や集荷業者・団体が主体的に需要に応じた作付け判断ができるよう、米の需給に関する情報提供を行う等、引き続き国が米の需給及び価格の安定に対する役割を果たすこと。

 また、ミニマムアクセス米の販売に当たっては、加工用米の需給に影響を与えないよう、対策を講ずることとし、農業者への影響が懸念される米の先物取引の試験上場については、常時監視及び監督し、適切に検証する等、米の需給対策との整合性に配慮すること。

 さらに、水田活用の直接支払交付金の戦略作物助成や産地交付金について継続的に十分な予算を確保すること。特に、飼料用米については、種子の確保対策や交付金による支援の継続に加え、保管・流通施設等の確保に向けた支援を充実すること。

(12) 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、インバウンドや外食需要の低迷に加え、配合飼料価格の高騰など厳しい状況にある畜産経営の安定を図るため、生産基盤の維持及び拡大、各般の経営安定対策の推進、自給飼料の生産及び利用の拡大、畜産における生産工程管理の取組への支援、国産畜産物の消費拡大や海外における販路拡大の推進等に必要な予算を確保すること。

 また、畜産農家の労働負担軽減等のためのスマート畜産の推進、ヘルパーの活動強化等にかかる支援策を充実及び強化するとともに必要な予算を確保すること。

(13) 中山間地域の振興については、過疎化・高齢化に対応するため、「食料・農業・農村基本計画」、「森林・林業基本計画」及び「国土形成計画(全国計画)」に沿った施策の拡充強化を図ること。

 とりわけ、高付加価値・高収益型農林業への転換を図るため、生産条件の不利な中山間地域においても活用できる生産基盤及び生活基盤の整備事業の実施、農林地の維持管理や地域資源の活用等を行う組織の育成及び運営に対する支援等を行うこと。

(14) 農林水産物等の輸出が円滑に進むよう、諸外国及び国際機関に対して、日本産品の安全・安心に関する正確かつ科学的根拠に基づいた情報の発信及びPR等により、検疫制度、通関制度の見直し、輸出可能品目の拡大等について働きかける等輸出促進のための取組を強化すること。

 特に、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い日本産品の輸入規制を講じている諸外国に対しては、規制措置の早期撤廃・緩和に向けた働きかけを行うこと。

(15) 環太平洋パートナーシップ(TPP11)協定、日・EU経済連携協定(日EU・EPA)、日米貿易協定及び早ければ年内にも発効される可能性のある東アジア地域包括的経済連携(RCEP)については、関税率の段階的な引下げ等長期的な対応が必要となることから、農林水産業への影響を継続的に検証すること。

 また、引き続き丁寧な情報提供の徹底や「総合的なTPP等関連政策大綱」に基づく政策等万全の対策を講ずること。

 さらに、日米貿易協定で合意された特定品目のセーフガードの発動基準数量をTPP11の範囲内に収めるよう、関係各国と強力に交渉を進めること。

(16) 経済連携交渉、WTO農業交渉等の国際貿易交渉に当たっては、食料の安定供給、食料自給率の維持及び農林水産物の国内生産量等に配慮し、農林水産業に影響を及ぼすことのないよう臨むこと。