全国都道府県議会議長会

東京電力福島第一原子力発電所事故対策に関する決議

令和5年10月26日 決定

 東京電力福島第一原子力発電所事故は、12年が経過した現在も収束しておらず、多くの避難者や根強い風評など、広範囲に深刻な影響を及ぼし続けており、原子力政策を国策として推進してきた国は、福島の復興・再生を加速させるべきである。

 特に、関係閣僚会議の決定に伴い本年8月24日に海洋放出が開始されたALPS処理水(以下「処理水」という。)については、放出に伴う風評被害等の影響が広域に及んでいることから、国においては、処理水の問題は、福島県だけではなく日本全体の重大な問題であるとの認識の下、前面に立ち、処分完了まで「数十年の長期にわたろうとも全責任を持って対応」する必要がある。

よって、次の措置を講ぜられたい。

1 原発事故への対応

 国が前面に立ち、当該原子力発電所の廃炉に向けた取組を安全かつ着実に進めるとともに、東京電力に対する指導・監督を徹底すること。

2 放射性物質の低減対策

(1)「放射性物質汚染対処特措法」に基づき、除去土壌等の確実な搬出及び原状回復、除染後のフォローアップなど、必要な除染等の措置を安全かつ着実に実施すること。

(2) 帰還困難区域等において実施する災害復旧事業等(河川、海岸)及び復興事業(道路、河川)においては、高線量のため再利用ができない土壌の発生により事業の実施が妨げられることのないよう、事前の除染や処分先の確保など、国が主体的に責任を持って必要な措置を講ずること。

(3)国の責任において指定廃棄物の処分施設を確保し、確実に管理・処分を行うこと。

(4)安全な農林水産物を継続的に生産できるよう総合的な対策を講ずるとともに、森林やため池等の放射性物質の低減を図るため十分な予算を確保すること。

(5)特定廃棄物埋立処分施設の埋立期間終了以降に新たに確認される指定廃棄物については、処分が滞り環境回復に支障が生じることのないよう、処理方針を速やかに決定すること。

3 処理水対策

(1)処理水の取扱いについては、長期にわたる取組が必要であることから、行動計画に基づき、政府一丸となって万全な対策を徹底的に講じ、処理を完遂するまで責任を全うすること。

(2)処理水の処分に関する基本方針等について、水産業をはじめとする関係団体や自治体等との信頼関係の構築に向け、丁寧な説明と真摯な対話を継続して行うこと。

(3)タンクに保管されている水の浄化処理について、処理過程の透明性を確保した上で確実に実施するとともに、地元関係者等の立ち会いによる水産物や海域環境モニタリングの実施など、客観性、透明性及び信頼性の高い安全対策を講ずること。併せて、処理水の元となる汚染水の発生量を、これまで以上に抑制する対策を講ずること。

(4)希釈放出設備の安全性の向上やトラブルの未然防止に努めることに加え、設備や海域環境モニタリングの値などに異常が確認された場合には、迅速かつ確実に放出を停止するよう東京電力を指導すること。

(5)IAEA等の国際機関と連携し、第三者による監視と透明性の確保に努めるとともに、トリチウムに関する科学的な性質や国内外におけるトリチウムの処分状況、海域環境モニタリングの結果などに加え、処理水の測定結果や希釈放出設備の運転状況など、科学的な知見に基づいた情報を、広く国内外に向け積極的かつ分かりやすく発信すること。

(6)トリチウムの分離に関する新たな技術動向の調査や研究開発を推進し、実用化できる処理技術が確認された場合には、柔軟に対応すること。

4 風評の払拭等

(1)農林水産業はもとより、観光業をはじめ幅広い事業者に対する万全な風評対策に責任を持って取り組むとともに、対策の実施状況や効果を確認しながら、支援内容の見直しや必要な対策を機動的に講じること。

 また、さらなる風評被害に対しても、一律に賠償期間や地域、業種などを限定することなく、透明性が高く、適切かつ迅速な賠償を行うよう、東京電力に対し指導するなど、国が最後まで責任を持って対応すること。

(2)農林水産物等の輸入停止・規制を実施している国及び地域に対し、輸入停止・規制措置の即時撤廃を強く働きかけること。

(3)中国向け水産物の輸出が困難な現状を踏まえ、関係する全ての事業者が安心して事業継続できるよう、新たな輸出先の開拓やニーズに応じた加工体制の強化、国内消費拡大に向けた取組への支援等、万全の対策を講じるとともに、制度の柔軟な運用や需要に応じた基金の随時積み増しを行うこと。

(4)輸入停止措置に起因する漁業者・流通・加工業をはじめとする水産業関係者の損失に対し、事業者が資金繰り等に窮することがないよう、運転資金に係る制度融資の柔軟な運用・充実等について、国の責任で迅速かつ確実に対応すること。

5 原子力発電所事故被災地域の復興

(1)「福島復興再生特別措置法」に基づき、国が責任を持って総合的な施策を推進するとともに、第2期復興・創生期間後も安心感を持って復興を進めることができるよう、必要な予算を十分かつ確実に確保すること。

(2)新たに創設された特定帰還居住区域について、避難が長期化したことによる住民の個別の事情や地元自治体の意向を十分にくみ取った上、早期の避難指示解除に向け、除染等に必要な予算を十分確保し、帰還意向のある全ての住民が一日も早く帰還できるよう最後まで責任を持って取り組むこと。

 また、特定復興再生拠点区域外における帰還意向のない住民の土地や家屋等の扱い、除染の手法・範囲についても、地元自治体と真摯に協議を重ね、その意向を十分に踏まえて、避難指示解除に向けた具体的な対応方針を早急に示し、将来的に帰還困難区域全ての避難指示を解除すること。

(3)福島イノベーション・コースト構想に関する各取組について、必要な体制や財源などを十分に確保しながら、政府全体で一層の連携強化の下、福島県と密接に連携し、構想の具体化を推進すること。

(4)福島国際研究教育機構(F−REI)においては、原子力災害に見舞われた福島県浜通り地域等が抱える問題のみならず、我が国が抱える担い手や労働者不足、災害への対応などの共通の課題解決に資する研究開発や、その産業化、人材育成を進めるとともに、国においてはその取組の効果を波及させるためにも、中長期的な枠組みでの予算の確保、優秀な研究者が集い世界最先端の研究開発を行う環境の整備などについて、責任を持って取り組むこと。

以上、決議する。

 令和5年10月26日

                                        全国都道府県議会議長会