全国都道府県議会議長会

2 エネルギーの安定供給確保及び脱炭素社会の実現について

令和5年10月26日 決定

 現在我が国では、昨年3月と6月に発生した東京電力管内などの電力需給ひっ迫に加え、国際的なエネルギー市場の変化に伴いエネルギー価格が大幅に上昇する事態が生じ、エネルギー危機ともいえる状況に直面している。他方、再生可能エネルギーの出力制御が近頃頻発しており、限りあるエネルギー資源を有効活用できていない状態にある。また、福島第一原子力発電所事故により、原子力の安全性について国民の信頼が大きく損なわれ、現在でも電力等のエネルギー供給に影響が残っている。

 安定的なエネルギー供給は、国民生活、社会活動の根幹であり、我が国の最重要課題である。エネルギーの安定供給を確保するためには、電力等の価格激変緩和措置という短期的な施策に留まらず、強靱なエネルギーシステムに転換するための中長期的な施策を推進する必要がある。

 一方、脱炭素社会の実現のためには、国民負担の抑制等多くの課題を解決し、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて官民一体となって総力を挙げて取り組んでいく必要がある。

 よって、次の措置を講ぜられたい。

(1) 電力需給ひっ迫や災害による大規模停電などを防ぐ強靱なエネルギーシステム構築に向け、送配電網の強化や再生可能エネルギーの出力制御を低減するための蓄電池の普及促進を含めたエネルギーインフラの整備及び分散型エネルギーシステムの整備などの方策を積極的に講ずること。

(2) 脱炭素社会の実現に向けて、洋上風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの導入拡大が進むよう、人材育成や住民の理解促進等の施策に着実に取り組むこと。

 その際、産業構造やエネルギーの消費・生成の状況は地域ごとに異なることから、地域の実情に応じて、地方公共団体や企業が脱炭素化に取り組めるよう、技術的・財政的支援を充実すること。

 また、令和6年度以降発行されるGX経済移行債については、地方公共団体が行う独自の取組に活用できるようにすること。

(3) 家庭・業務部門での脱炭素化を推進するため、住宅・建築物への太陽光発電設備の導入に対する支援を充実するとともに、省エネ化や省エネ家電のより一層の普及支援等省エネ対策を強化すること。

 なお、非常用電源の確保の観点から、家庭用蓄電池やガスコージェネレーションシステム導入者に対する国の助成策を大幅に拡充すること。

 また、太陽光発電施設については、防災や環境保全等の観点から適正に設置されるよう、森林法の改正をはじめ、立地の規制に係る法整備等の所要の措置を行うとともに、災害時の斜面崩落誘発の防止など安全性を確保するため、設計や施工管理に係る基準を整備すること。

(4) 企業が脱炭素化を実現するために行う設備投資などについて、企業のニーズを踏まえた適切な支援を行うとともに、周知啓発を図ること。

 特に、中小企業が徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーの導入を実践できるよう、省エネ設備や自家発電設備の導入などに関する支援を充実すること。

(5) 電気自動車(EV)・燃料電池自動車(FCV)の普及や充電インフラ・水素供給インフラの整備を促進するための支援を充実すること。

 また、自動車の電動化に取り組む自動車業界に対し、電動化部品生産拠点の整備に対する支援やグローバル市場における環境規制に対応するためのライフサイクル全体の脱炭素化の取組に対する支援を行うこと。

(6) 新たな燃料となる水素やアンモニア等の国内生産拠点や水素ステーション整備等、サプライチェーンを早急に構築するとともに、利活用に向けた技術開発を推進すること。

 また、カーボンニュートラルポートの形成に向けた検討を行う中で、水素やアンモニアなどの輸入拠点への転用やバイオマス用の荷揚げスペースの確保などの配慮を行うこと。

(7) 木質バイオマス等の利用を拡大するため、原料収集の低コスト・効率化やエネルギー利用効率向上のための技術革新を強力に促進するとともに、低質材など木質バイオマス燃料の供給とエネルギー利用に対する支援を充実すること。

(8) GX脱炭素電源法の成立を踏まえ、高経年化した原子炉に係る新たな安全規制を含め、厳正な規制を行うこと。

 また、原子力発電所の安全性に関する国内外の最新の知見を絶えず収集・分析し、適切に基準に反映させるなど、原子力規制の充実強化に取り組むこと。

 さらに、原子力規制の取組状況や安全性の確認結果について、広く国民への説明責任を果たすとともに、原子力の安全確保等に関する情報公開、関係地方公共団体や住民への説明、広報の充実強化を図り、理解促進に努めること。

(9) 安全性が確認された原子力発電所の再稼働については、国としてエネルギー政策上の必要性を明確に示し、地元の意向を尊重しながら責任を持って判断し、その結果について国民に丁寧かつ十分な説明を行い、理解を得ること。

(10) 原子力災害対策指針については、最新の知見や関係地方公共団体等の意見を踏まえ、必要な項目を早急に整備するとともに、住民の安全確保の視点に立った改定を継続的に行うこと。

 また、地方公共団体が行う地域防災計画(原子力災害対策編)の改定や福島での事故を踏まえた防災対策の強化に対して、引き続き必要な調整、支援及び協力を行うこと。

 さらに、原子力災害時に多数の住民が迅速かつ確実に避難できるよう、使用する道路や港湾等のインフラ整備をするための新たな財源措置を講じ、早急な整備を図るとともに、医療機関や社会福祉施設の入所者など避難行動要支援者が迅速かつ安全に避難できるよう、避難手段及び避難を支援する要員の確保等に対する必要な支援を行うこと。

(11) 原子力規制委員会において想定されていない原子力発電所に対する国外からの直接的な武力行為については、有事に備え国防の観点から国主導で安全対策について議論を行い、有事への対策を講ずること。

(12) 廃止が決定した原子力発電施設の廃棄物については、国の責任において処分方法の議論を進めること。

 また、廃止が決定した原子力発電施設について、安全・防災対策などの行政負担が引き続き生じていることから、撤去完了までを見据えた財政支援を行うこと。さらに、電源三法交付金等については、対象地域を原発から30キロ圏内の原子力災害対策重点区域まで拡大するなど、制度の見直しを図ること。