全国都道府県議会議長会

2 農業の持続可能な成長を実現するための取組の推進について

令和5年10月26日 決定

 地域経済の発展及び強固な食料供給基盤の確立を図るためには、地方の基幹産業である農業の持続可能な成長を実現することが重要であるが、我が国の農業は、生産者の減少・高齢化、国内市場の縮小、生産資材の長期的な価格上昇により深刻な事態に直面している。

 そこで、これまでの農林水産政策を大きく転換したスマート農林水産業、農林水産物・食品の輸出促進、農林水産業のグリーン化等を着実に推進し、農業を地域経済を支える産業に変えていく必要がある。

 よって、次の措置を講ぜられたい。

(1) 若者、女性、障害者、外国人材なども含めた多様な担い手の安定的な確保のため、就農促進に向けた施策を強力に推進すること。

 また、担い手の育成と定着を図るため、意欲ある農業者に対する支援を充実させること。

(2) 地域農業を担う多様な経営体が、将来に希望を持って農業経営に取り組むことや持続可能な農業の確立ができるよう、農地利用集積の加速化及び地域特性に応じた農業生産基盤整備を総合的に推進すること。

(3) 農業及び農村が、国土や自然環境の保全、文化の維持や継承、地域社会の維持や発展等の多面的機能を発揮することができるよう、農業農村整備に関する予算を十分確保すること。

(4) 農業DXの実現に向け、それぞれの地域の特性を考慮した上で必要な財政支援を引き続き行うとともに、データ活用基盤の強化やDX人材の育成などについて支援を充実させること。

(5) 災害に強い農村地域を構築するため、老朽化した農業水利施設の設備更新、長寿命化、耐震診断及び耐震化施策を推進すること。なお、田んぼダムや遊水地の取組については地域の農業者への影響に十分配慮すること。

 また、近年、記録的な豪雨や大型台風、地震など自然災害の発生が頻発化・激甚化・広域化していることから、被災した農林水産業の災害復旧事業については、地方公共団体の資金需要に応じ、適切な時期に予算措置すること。

(6) 「経営所得安定対策」については、将来にわたり安心して農業経営に取り組める制度とするとともに、意欲ある担い手に対する支援を強化すること。

 なお、収入保険制度及び農業共済については、農業者が無保険の状態となることがないよう、農業者個々が経営内容に応じたメリット、デメリット等を理解した上で加入の判断ができるように引き続き周知に努めるとともに、収入減少を補填する関連施策全体について検証し、農業者のニーズを踏まえた改善を行うこと。

(7) 農業改革を進めるに当たっては、経済合理性のみを重視するのではなく、中山間地域等の実情や意見を反映することはもとより、農業及び農村が有する多面的な機能にも配慮しつつ、農業及び農村の振興や食料供給など農業協同組合及び農業委員会等が地域で担ってきた役割を踏まえ、今後とも国民の食を守り、農村を将来にわたり継承していけるよう、必要な支援を講ずること。

(8) 改正農業経営基盤強化促進法に基づき市町村が作成する地域計画の実現については、地域の実情を踏まえた上で担い手への利用集積等が効率的に進む運用となるよう配慮するとともに、地方負担の軽減に必要な予算を十分に確保すること。

 特に農地中間管理事業については、財政・運営面に対する支援を充実させ、安定した制度運用を図ること。

 また、機構集積協力金交付事業、機構集積支援事業等については、地域の実態に応じた予算を十分に確保すること。

(9) 水田活用の直接支払交付金の戦略作物助成や産地交付金について継続的に十分な予算を確保すること。

 なお、交付対象水田要件の5年に一度の水張りについては、食料安全保障や中山間地域の農地保全等の観点も含め、各地域の生産現場の実情を十分に踏まえて安心して転換作物の生産に取り組むことができる運用とすること。

(10) サツマイモ基腐病の被害が全国で拡大していることから、健全な苗の購入、排水対策、育苗施設の導入等への支援を充実するとともに、被害軽減を図るための試験研究等を推進すること。

 また、原料用サツマイモの確保に係る支援を講ずること。

(11) 配合飼料価格の高騰や家畜伝染病の大規模な発生など厳しい状況にある畜産経営の安定を図るため、生産基盤の維持及び拡大、各般の経営安定対策の推進、自給飼料の生産及び利用の拡大、畜産における生産工程管理の取組への支援、国産畜産物の消費拡大や海外における販路拡大の推進等に必要な予算を確保すること。

 また、畜産農家の労働負担軽減等のためのスマート畜産の推進、ヘルパーの活動強化等にかかる支援策を充実及び強化するとともに必要な予算を確保すること。

(12) 生乳の需給ギャップが生じていることを踏まえ、牛乳の消費喚起、国産チーズなどの乳製品の生産・販路拡大への支援を充実させ、需要拡大を推進すること。

(13) 野生鳥獣による農作物被害は、経済的損失にとどまらず、事業者の意欲の減退や耕作放棄地の増加にもつながることから、侵入防止柵の整備やジビエの利活用の推進に対する財政支援を充実すること。

(14) 農林水産物等の輸出については、海外市場の需要に応じた販売力強化、輸出先国の生産段階での食品安全規制等への対応支援、さらには諸外国及び国際機関に対して検疫制度、通関制度の見直しや輸出可能品目の拡大を働きかけるなど、輸出拡大及び促進のための取組を強化すること。

 また、東京電力福島第一原子力発電所事故、及び本年8月24日のALPS処理水の海洋放出開始に伴い日本産品の輸入規制を講じている一部の国及び地域に対して、規制措置を即時撤廃するよう強く働きかけるとともに、政府間の交渉の取組状況について、継続して情報提供を行うこと。

(15) 環太平洋パートナーシップ(TPP11)協定、日・EU経済連携協定(日EU・EPA)、日米貿易協定及び地域的な包括的経済連携(RCEP)協定については、関税率の段階的な引下げ等長期的な対応が必要となることから、農林水産業への影響を継続的に検証すること。

 また、引き続き丁寧な情報提供の徹底や「総合的なTPP等関連政策大綱」に基づく政策等万全の対策を講ずること。

 さらに、日米貿易協定で合意された特定品目のセーフガードの発動基準数量をTPP11の範囲内に収めるよう、関係各国と強力に交渉を進めること。

(16) みどりの食料システム戦略に基づき、事業者や地方公共団体が、有機農業や畜産・酪農における環境負荷軽減対策等に積極的に取り組めるよう、財政支援を講ずること。