全国都道府県議会議長会

5 水産資源の安定的な確保及び漁業経営の強化について

令和5年10月26日 決定

 我が国の水産業は、近年の水産資源の減少や分布の変化などによる漁業経営の悪化、漁業就業者の不足及び高齢化の進行による地域活力の低下、燃油や配合飼料価格の高騰、さらには、本年8月24日に東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出以降、一部の国及び地域が日本産水産物の輸入規制強化等の科学的根拠に基づかない措置を取るという事態が重なり、極めて厳しい状況に置かれている。

 このような中、水産物の安定供給の確保と水産業の健全な発展を実現するためには、総合的かつ計画的な水産施策の展開が求められている。

 よって、次の措置を講ぜられたい。

(1) 東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の放出による影響について、政府一丸となって、国内外に向けた農林水産物の安全性に関する正確な情報提供やPR活動を継続・拡充し、新たな風評が生じないよう責任を持って取り組むこと。

 また、そうした対策を講じても風評被害が発生する場合の賠償については、一律に賠償期間や地域、業種などを限定することなく、透明性が高く、適切かつ迅速な賠償を行うよう、東京電力に対し指導するなど、国が最後まで責任を持って対応すること。

 さらに、ALPS処理水の海洋放出以降に輸入規制強化等を行った一部の国及び地域に対し、科学的根拠に基づかない措置を即時撤廃するよう強く求めるとともに、その他の輸入規制を実施している国に対しても引き続き規制措置を撤廃するよう強く働きかけ、その政府間の交渉の取組状況については継続して情報提供を行うこと。

(2) ALPS処理水の海洋放出以降の一部の国及び地域の輸入規制強化等により、我が国の水産業は甚大な影響を受けているため、全ての事業者が安心して事業継続できるよう、新たな輸出先の開拓や輸出先のニーズに応じた加工体制の強化、国内消費拡大に向けた取組等へ支援を拡充すること。また、運転資金に係る制度融資について、水産加工業等の関連事業者も含めて無利子で融資を受けることができるよう充実すること。

(3) 水産資源の回復を図り、安全で安定した水産物の供給体制の確立を図るため、漁場の整備や漁港における高度衛生管理対策、漁港施設の防災対策など水産基盤整備を計画的かつ着実に推進すること。

 また、改正漁業法に基づく新たな資源管理の推進に当たっては、漁業者の十分な理解と協力を得て進めるとともに、資源管理の精度向上及び都道府県による地先資源の調査や自主的資源管理の高度化等に係る必要な予算を確保すること。

 さらに、水産資源の分布や回遊等に関する情報収集の強化を行うとともに、調査・研究により資源評価及び漁況予報の精度向上を図ること。

(4) 水産業の競争力強化及び海洋環境の変化による不漁対策として、収益性の高い操業体制への転換を促進するため「広域浜プラン」に基づく浜の機能再編や漁船及び漁業用機器の導入等の取組が漁業現場の実態を踏まえて着実に実行できるよう予算を確保すること。

(5) 漁業者の経営安定を図るため、漁業共済制度の国庫補助率の引上げや漁業経営セーフティネット構築事業の更なる要件の緩和等一層の支援を講ずること。

 また、漁船漁業の省エネルギー化に向けた技術開発と実用化を積極的に推進すること。

(6) 水産加工業の振興を図るため、販路の開拓、新商品の開発、人材確保、生産性向上及び金融の円滑化等に対する支援を行うこと。

(7) 担い手の確保・育成を図るため、新規漁業就業者の受入体制づくりを支援するほか、漁業後継者に対する次世代人材投資(準備型)事業の支援条件を緩和するとともに、研修施設等の整備に対する支援制度や新規就業後の収入が不安定な期間における給付金制度を創設すること。

(8) 広域的な資源管理体制の構築及びさけ・ます資源の回復やふ化放流事業の安定継続、栽培漁業の充実など水産資源の適切な保存管理と生産の増大が図られる施策を展開すること。

 さらに、公海域における外国漁船による漁獲の水産資源へ与える影響が増していることを踏まえ、さんまやさば類など公海域において漁獲されている資源の適正な管理に向け、国別漁獲可能量の設定など実効ある保存管理措置を実現するよう、関係各国との交渉を進めること。

(9) 日中漁業協定に基づく日中暫定措置水域及び中間水域、日韓漁業協定に基づく日韓暫定水域並びに日台漁業取決めの適用水域については、水産資源の保存及び管理措置の早期確立を図ること。

 また、我が国排他的経済水域内における外国漁船の操業条件等については、我が国漁業者の意向を尊重し見直すこと。

(10) 我が国漁業の操業機会と安全の確保及び資源保護を図るため、外国漁船による違法操業の監視及び取締りを充実強化すること。

 また、韓国・中国等外国漁船操業対策事業は、北朝鮮漁船への対策も含め今後も安定的な事業実施が可能となるよう、予算を十分に確保すること。

(11) ロシア連邦との協定や他協定に基づく漁業も含めての操業機会が適切に確保されるよう引き続き強力に働きかけること。

 また、地元漁業者の負担軽減に努めるほか、栽培漁業の推進や関連産業の振興等に対して、引き続き支援を行うこと。

(12) 水産物の消費を拡大するため、水産物の安全性の確保を図るとともに、地域産業との連携、消費者ニーズに対応した水産物の流通・加工体制の整備及びトレーサビリティの推進等衛生管理の高度化やPR等輸出促進を図ること。

(13) 海獣類による漁業被害防止対策を強化するとともに、被害及び休業等に対する補償制度を創設すること。

 また、有害生物漁業被害防止総合対策事業について、更なる充実強化を図ること。

(14) 水質浄化等の多面的機能を有する藻場の維持、保全及び磯焼けの解消等を図るため、漁業者等が行う保全活動への支援を拡充すること。

(15) 養殖業者が安心して持続的に養殖業を営んでいくためには、赤潮プランクトンによる被害を最小化するための技術開発が不可欠であり、発生メカニズムの解明、発生防止対策の確立、防除技術の開発及び実用化に向け一層取り組むこと。